というわけで、3/16本日・池袋ジュンク堂池袋本店4Fにて行われました、竹熊健太郎(たけくまけんたろう)・著『マンガ原稿料はなぜ安いのか?』(イースト・プレス刊)(ISBN:4872574206)のトークイベントPart3に行ってまいりました。
ゲストは奥村勝彦(おくむらかつひこ)(「コミックビーム」編集長)。
以下、メモ。
(注:以下は個人的な記録の「メモ」であり、「レポート」ではありません。正確性を書いた書き込みもあります。また、下に書いたように20分ぐらい遅れて行きましたので、最初の部分は不明です)
- 出版社の問題点
- 出版社の問題点は、同族経営が多く、要するに個人商店である事(奥村)。
- だいたい、上場している出版社というものは少なく、学習研究社、ベネッセコーポレーション(元・福武書店)、角川ホールディングスなど数社。よく言われているが、講談社や小学館も上場はしていない(竹熊)。
- 『コミックビーム』の版元であるエンターブレインも一度、傾いて銀行が入って、経営が明確化された(奥村)。
- 自分たちの仕事が幾ら儲かっているのか、明確でないのは困る。秋田書店時代は、まったく現場に知らされていなかった(奥村)。
- 上場している出版社が少ないのは、出版における労働組合が強かったから、という背景もある。少年画報社(『ヤングキングアワーズ』等の版元)なんか最近まで、明治大学構内に張ってあるような独特の書体でピケを張っていた(竹熊)。
確かにまぁ、少年画報社とか水道橋にあんだけど、夜真っ暗ですからね(夜が中心の編集部からするとありえない光景)。あれって、中では働いている………んですよね?
- 編集とは何か
- 良い編集とは、作家と会社で付き合うよりかは、個人との関係つまり良い共犯関係にあるのがそれといえる(竹熊)。
- ただし、編集も会社の一員であり、他業種では見られない矛盾を抱えた商売ではある(竹熊)。
- 雑誌・単行本と収益を見て、100円でも黒字ならその作家に賭けてもいいと思う(奥村)。
- 最近は名物編集者というべき人が少なくなってきた(竹熊)。これ以降、名物編集者話。
- (余談)『クイック・ジャパン』(太田出版)を創刊した編集長、赤田 祐一は『クイック・ジャパン』を創刊しようと思って飛鳥新社に企画書を出した。しかし、まったく受け入れずに数年が過ぎたが、赤田はその間『磯野家の謎』というベストセラーを生み出した。その実績を出した赤田が飛鳥新社でいよいよ『クイック・ジャパン』を創刊しようという時、飛鳥新社は「(雑誌)コードは貸すので、自分でお金を出すように」と言った。そこで赤田は700万円自腹で出して、『クイック・ジャパン』創刊準備号を作った。そのため、中森明夫も竹熊健太郎もノーギャラで書いた(竹熊)。
- (余談)ちなみに、赤田は『磯野家の謎』の他にもう一つ、ベストセラーを出している。それが『バトル・ロワイヤル』である(竹熊)。
- 奥村の師匠といえるある編集者が「マンガ家はキチガイなんだから、あの世に片足突っ込んでいないと書けない。それを相手にする編集者がキチガイでなくてどうする」と言われた(奥村)。
- トキワ荘時代からの編集者、というのに何人か会ったことがあるが、「団塊の世代」の編集者より信用できそうな気がした(奥村)。
- 70年代の双葉社の小尾さんもそういう人だった(小尾氏は『アクション』の編集者で、どおくまんを発掘した編集者。当時、ほぼ全員がどおくまんの掲載を拒否したものの、小尾氏が自分の首をかけて掲載したら大ヒットしたという)(竹熊)。
- 『ビッグコミックスピリッツ』の創刊編集長、白井氏(現・小学館専務取締役)もそういう人(竹熊)。
- アンケートとは?
- 青年誌のアンケートは信用できないもの(奥村)。
- 『ビッグコミックスピリッツ』のアンケート上位はいつも『美味しんぼ』だし(竹熊)。
- 『コミックビーム』も何度も「アンケートはやめたい」と言っていたが、「嫌いな作品」がどんだけ一位に来たりしているのかとか見て楽しんでいる(奥村)。
- ジャンプの、西村編集長時代のアンケートはまた別物(竹熊)。
- あれだけ(当時のジャンプ)ほど徹底していればいい。あれそこまでやったからジャンプも今がある(奥村)。
- 西村編集長時代から、鳥嶋編集長時代になってから、作家が言うこと聞かなくなってきた(竹熊)。
- アンケートを読んで作家と喫茶店で涙していたジャンプの編集者がいたという話を聞いたことがある。自分はそこまではできない(奥村)。
- 地方から成り上がった作家、というのがいたその時代ではいいかもしれないが、作家も、振り返ってみると、「一体何をしているんだろう」という気になって、考え込んでしまう(竹熊)。
- 竹熊健太郎が考える新しい漫画製作のシステム1
- これはこのトークショーのPart.2で鈴木みそさんが言っていたんだが、各国ではそれぞれ漫画のビジネスモデルが違う。そのように、今の日本の中で、いくつかのビジネスモデルがあっていいのでは、と考えて、本書(『マンガ原稿料はなぜ安いのか?』)の中で「描きおろし漫画単行本」という事を書いた(竹熊)。
- ただ、それには初版で5万部ぐらいないと厳しいだろうと思う(奥村)。
- 漫画家にはアシスタントの問題がある。アシスタントが結局、かなりお金を食うのでそれを出版社が負担するというのはどうか(竹熊)。
- 現在のシステムでは、版元側のリスクが少ない。漫画が打ち切りになっても編集者は首にはならないし、何らかの形でリスクを軽減するべきではないか(竹熊)。
- 『コミックバンチ』では、会社側がアシスタントを用意するという形になっている。ただし、会社から紹介されたアシスタントが還暦を迎えるような人だった、という話もあり(竹熊)。
- 理想的な形ではあると思うものの、締め切りが重なっている中でアシスタントをどう振り分けるか?など問題が多いと思う(奥村)。
- 『コミックビーム』では、漫画1p8,000円で16pでやっと生活していけるかな、というラインでの原稿料がある。そのため、だいたいの作家さんがアシスタントは使っていない(奥村)。
- 過酷な週刊連載はアメコミ方式にして薄利多売、月刊漫画誌は値段を高くして、作家性の高い作品を掲載してはどうか(竹熊)。
- 竹熊健太郎が考える新しい漫画製作のシステム2
- 芸能関係でよくある「エージェント」というシステムは漫画関係ではなぜ成功しないか?(竹熊)
- 昔からの作家-編集という「共犯関係」というものが長く、エージェント=異物と見る排他的な見方が業界にはあるので、なかなか上手くいかない。上手くいくとしたら、業界で相当に信頼のある編集者がエージェントをやった場合に限り、だろう(奥村)。
- 作家というのはだいたいが契約オンチなので、そういうのを代行する存在としてのエージェント、というのはいてもいいかもしれない(奥村)。
- 『ビックコミックスピリッツ』の元編集者、長崎尚志氏は浦沢直樹を見出した人だが、最近では『PLUTO』(プルートゥ・『ビックコミックオリジナル』連載中)の「プロデューサー」として出ている(『20世紀少年』のスピリッツ本誌連載分には『協力/長崎尚志』として、単行本の奥付には監修者として名前が掲載されている)。ああいう人ならエージェントも可能かもしれない(竹熊)。
- 『週刊少年マガジン』の元編集者・樹林伸(キバヤシ)氏などでもいいかもしれない(竹熊が忘年会で名刺交換した時、名刺には天樹征丸や青樹佑夜など七つぐらいペンネームがあったとの事)(竹熊)
- 大塚英志とかでもできるかも(竹熊)。
- 海外展開について(注:かなり不正確です。申し訳ない)
- (詳しくは言えないが)いろいろな展開がある(奥村)。
- 我々が見てきたようなアニメや漫画で育ったような世代が大人になって、従来より抵抗なくなってきた(竹熊)。
- その昔、中国では『ドラえもん』(中国名:機器猫)以外の漫画が禁止されていた(竹熊)。
- 現在では、中国もビジネスにしようと考え、大学に漫画のコースを設けたりしているようだ(竹熊)。
- 私(竹熊)と相原コージが「サルまん」の為に中国に行ったことがある。そこで、向こう学生が描いた漫画を見てくれと言われた。ある女の子が描いた漫画は、シカゴを舞台にしたギャングの漫画だったが、擬音は全て日本語で描かれていた。どうしてかたずねると、「そのほうがカッコイイから」と言った(竹熊)。
- しかし、中国で漫画がもっと読まれるようになったら、地球はまるはだかになっちゃうぜ。資源問題だ(笑)(奥村)。
- 質疑応答1「ジャンプで富樫義博がラフ画みたいなのを掲載していますが、ああいう事についてプロの方はどう思いますか?」
- 現場の事情はよくわからないけど、あれは富樫さんもあれでいいとは思っていないでしょう(奥村)。
- 見ていて、痛々しいというのが正直な感想です(奥村)。
- そういえば、手塚治虫先生も一度書きかけで載せたことがある。たしか『MU』で、間に合わないので編集者が途中で持っていってしまった。完成した雑誌が届き、恐る恐るアシスタントが雑誌を見ていると、後ろから手塚先生が現れ、涙をぼろぼろ流しているたそうだ(竹熊)。
- 質疑応答2「最近、チャンピオンで描いていた作家がマガジンに描いていたりしますが、あれは原稿料の問題なのですか?」
- 最近の秋田書店の事情はわからないけど、少年誌でどんどん連載を持つような作家さんだったら、原稿料はそれほど関係ないと思う(奥村)。
- むしろ、編集との関係だと思う。そういった意味では、引き抜かれるチャンピオンの編集はだらしないな、と少しは思う(奥村)。
- 先ほど竹熊さんが言っていたとおり、漫画家と編集者は「いい共犯関係」にある。(チャンピオンの件は)編集者が代わったとかいう事情があるのではないか(奥村)。
- 大手出版社で問題なのは、すぐ編集担当者が部署移動になったりする事。下手すると、漫画をやっていない事がある(竹熊)。
- ジャンプもあれだけの部数を誇った頃、部署移動が一番少なかった(竹熊)。
- (チャンピオンの件は)講談社が、代わった所を上手くついたのではないか(竹熊)。
- そういうのは、自分で育てないでどっかから持ってくる小学館や講談社が上手い(竹熊)。
- そういえば昔、小学館が「ガロ」を初代編集長・長井勝一ごと買収しようとしていた事があった。まだ、ビッグコミックなどが出る前の青年誌を出そうとしていた頃。しかし、長井勝一は小学館が白土三平と水木しげるしか欲しくないという事を悟り、断った(竹熊)。
- 作家と「いい共犯関係」になれるのは、何年ぐらいかかるでしょうか?(竹熊)。
- 三年で「やっと何とかできそうだ」という程度。もっとかかります(奥村)。
- そういう意味では、竹熊さんと桜玉吉さんとかはいい共犯関係では? 予備校時代からだから(奥村)。
- いや、桜玉吉とは友達で……仕事は実質一回しかしていないし(竹熊)。
- その一回の仕事というのは、海外の漫画雑誌で、『スーパーマリオブラザーズ』の漫画を描いた時。そこで当時、『ゼルダの伝説』を"石ノ森"章太郎が描いていた(注:小学館から単行本出ていますが現在入手困難)(竹熊)。
- 向こうの担当者が偉そうに注文をつけるので閉口した。向こうからすると、大御所の石ノ森章太郎も桜玉吉も一緒なのでバンバン注文をつけてくる(竹熊)。
- 一度、爆発シーンで石ノ森先生が端にブタの丸焼きをギャグで描いておいた。ところがそういうギャグのわからない向こうの担当者は「ここにブタはいなかったのでこういうものを描くのはおかしい」とNGを出した。それで石ノ森先生はすごく怒った(竹熊)。
- 向こうの担当者が日本に来たとき、任天堂本社でこれまた偉そうに指示を出していたが、そこへスーパーマリオの生みの親、宮本茂がやってきた。宮本茂は「漫画とゲームは別物だと考えているので、描く人の好きなようにやってください」と言った。氏が現れてその担当者は感激し、対応がころっと変わった。外国人もそういう事があるのかと思った(竹熊)。
- 質疑応答3「「萌え」についてどう思いますか。というのも、知り合いの漫画家が、「話は面白くなくとも萌えればいいんだ」と言われたらしくて」
- 実際はともかく、「萌え〜」という、あの足元からせりあがってくる感じを上手く表した言葉ですね(竹熊)。
- そりゃ、私だってかわいい女の子をみればどきどきするけど、私が見る以上、最低限、私が判らない漫画でないと通せない。それが編集長の務めだから(奥村)。
- かわいい女の子が全コマ笑っているだけだったら、漫画である必然性がないですからね(竹熊)。
- 質疑応答4「再販売価格維持制度(通称:再販制)がなくなると、漫画の原稿料は上がりますか?」
- あまり変わらないと思います(奥村)
- 質疑応答5「ブックオフやオークションについてどう思いますか?」
- そりゃ書店の人に聞いた方がいいんじゃあないかな? まぁ、いい気はしない。一度、500円の付録つき雑誌の付録が500円以上で売られていて悲しかったな。買えよ!って(奥村)。
- 質疑応答6「プロの方々から、この業界に入ってくる方に向けて何かメッセージはありますか」
- この業界、この先いい事はあまりないし、骨を埋める覚悟で来てほしい(奥村)。
- 奥村さんも、この先よくはならないなと感じますか?(竹熊)
- そりゃ、携帯電話にこれだけお金と時間を奪われていますからね。お金はまだしも、電車の中とかの時間を奪われたのは痛いね(奥村)。
- 家電の研究部門では、必ず「基礎研究」という部署がある。すぐには役にはたたないけど、重要な部分であり、『コミックビーム』もそういう漫画界の「基礎研究」となっていって欲しい(竹熊)。
という訳で、最後の質疑応答はかなりあいまいな所もありますが、まぁこういう事を話していましたよ、ということで。記述内の間違いなどは全て私に責任がありますし、事実誤認は訂正いたします。長くなってしまいました。