Radio CON$

CON$のブログ。アニメとかホラーとかレトロゲームとか好き。

サラ・ウォーターズ『荊の城』(いばらのしろ)(創元推理文庫)

cry_condor2005-01-04



荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)




「なら、きみを憎め。ぼくたちは似たもの同士だ。きみが思うよりずっと似てる。ぼくらのような心の曲がった人間が世間に愛されると思うか? 軽蔑されるんだ。ありがたいことだ! 愛から利益は得られない。富は憎しみから搾り取るものだ、雑巾から泥水を絞るように。きみもそれが現実だとわかってる。ぼくたちは似たもの同士だ。もう一度、言う。ぼくが憎いなら、きみを憎め」



 19世紀半ばのロンドン。17歳になる孤児スウは下町の故売屋に住んでいる。そんな所にやってきた詐欺師、通称「紳士」が大掛かりな詐欺の話を持ち込む。テムズ河上流にそびえ立つブライア城に住む令嬢をたぶらかし、財産をそっくりいただこうというのだ。しかし、実際に事が進むと………。


 初めてこのPAGEをご覧になる方、はじめまして。
 今回、「読書感想しりとりリレー2005」に参加させていただくことになりました。拙い文章で申し訳ありませんが、一年よろしくおねがいいたします。
 私は海外小説が好きで、映画もほとんど邦画以外ぱかりです。今回の「読書感想しりとりリレー2005」も海外モノからしか選ばないことに決めました。ほんの少しでも、海外小説の面白さを知っていただければ幸いです。
 本題に入る前に、ちょっとここでどうして海外小説ばかり読んでいるのかという事について簡単に説明させていただければと思います。要は「知的なひまつぶし」であるところの「読書」の楽しみを体現しているのがまさしく海外小説だから、という事になりますでしょうか。
 小説で何が好きかといえば、やはり「物語」。ここではないどこかに連れて行ってくれる没入度の高いプロット、アイデアを見せてくれるという点では海外小説に軍配が上がるのではないでしょうか。偏見といわれればそれまでですが、地理的に遠い場所で書かれた物語の普遍性を追ううちに、単に字が並んでいるだけの「小説」「物語」というものが心に影響を与えるそのダイナミックさに震える、これが海外小説の醍醐味です。
 どうも翻訳文体がニガテで、とか、一度翻訳者の手によって書き直されている小説はどうも純度が低い気がして、とかの理由で海外小説を読まない方は本当に人生、損していますよ!と断言しておきましょう。



 その海外小説の楽しみを伝えられて、なおかつスタートを切るにふさわしい、今まで国内もの一辺倒だった人でも食指が動く一作は………と考えたのが今回の『荊の城』(創元推理文庫)です。もうこれしかない。
 著者のサラ・ウォーターズの名前はミステリ好きの方なら一度は書店店頭でご覧になった事があるでしょう。英国推理作家協会(CWA)のヒストリカルダガー賞、そして『このミステリーがすごい!』の何と海外部門二年連続一位という栄光を得た方ですね。
 前作『半身』もよかったんですが今回も楽しめました。19世紀ロンドンの時代背景を緻密に描きつつ、あまりにも順調に、じんわり進んでしまう前半と、そのすんなりした所に疑念を抱いたところに襲い掛かる後半の展開はお見事。


 ミステリというよりゴシック小説がかったサスペンスといった方が正しい今作ですが、やはり冗長とも言える主人公がブライア城に潜入して恐る恐る計略を詰めていく過程がこの作品の肝でしょう。この英国小説らしい味わいがなければ後半が生きてこない。
 読む方にはぜひ「なかなか話が進まないな」などと思わずに、ヴィクトリア朝のロンドン、それも下町に「生きる」楽しみに上下二冊分、どっぷりひたりつつ楽しんでいただきたいものです。奇想天外なトリックとか細かい会話の妙、作者との知恵比べみたいなミステリ要素を期待している方にはあまりお勧めできないんですが………。
 「女は男より何か大切なものを隠している気がするわね」というのはアニメ『カウボーイビバップ』のフェイ・バレンタインの台詞だったと思いますが、その「女性の隠しているもの」が激しくぶつかり合い静かに火花を散らす物語が、女心はフシギだなーと思う男の私にとっては新鮮で好奇心を持って読めました。女性の方の感想も聞いてみたいですね。ああこんな騙しの展開なんか会社で毎日やってるわよフィクションの世界まで持ち込まれてまっぴらごめんよ!という感想の方もいらっしゃるんでしょうか? 女性のある一線を超えてしまう残酷さ、打算、という意味では桐野夏生『OUT』を読んだときに感じた女心がよく描かれていると思っているんですが(え、解っていないって?)。


 さて前作『半身』を読んだ方にもちょっとご案内しておきますと、前作のあのソフト百合、主従関係、身分といったテイストが近作もふんだんに展開されておりますよ。作者が好きなのかなぁ。
 前作は「これホラーなのか? ミステリなのか?」と読み進んでいくうちにこれまたゴシック小説の魅力に取り付かれて最後に伏線をどっと回収するどんでん返しといった構成にメロメロだったんですが、前作の消化不十分だった「その後」の展開についても触れられているという所で『半身』を読んだ方はもう読む義務があるといっても過言ではないでしょう。
 逆に、『荊の城』から『半身』という過程の方は『荊の城』の前半に耽溺できる自分を想定しつつ読まないと(心理描写が多く動きが少ない小説なので)ちょっと辛いかもしれませんよ。


 さて「ろ」で終わったけど、次回はgekka blogのマサトクさんが「これにつなげるのは難しいですよ」と書いていらっしゃった。そうですよね。どうもすみません。まあ「ら」行が多くなって、しりとりとしてはイジメみたいな気分になってきましたが、許して!