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CON$のブログ。アニメとかホラーとかレトロゲームとか好き。

SFセミナー

 (一部、当初は「さん」付けで書いていましたけど、やはりおかしいので敬称は省きました。気軽に書いてしまい失礼をいたしました)

 只今、最初のコマが終りました。
 『超SF翻訳家対談』
 出演:浅倉久志大森望 司会:高橋良平

 浅倉久志大森望が壇上に。
 浅倉久志はここで書くまでも無いのですが『アンドロメダ病原体』や『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』など数々の名著を翻訳された、さすがに「超SF翻訳家」と言えるゲストです。
 今年でお歳が76歳だと思うんですが、お元気そうでした。
 いや、失礼ながら生きたお姿を拝見できただけでも収穫でした。個人的に大好きなフリッツ・ライバーの「二剣士シリーズ」を持ってこなかった事を後悔。会場で1巻のサイン本を売っていたんですけどね。
 浅倉久志の昔の話を伺うという感じでしたが、以下面白かった事を。

 ・もともと織物の会社に勤めていて、40数年前にプロの翻訳家として独立。もっと早く会社を辞めていれば面白い作品が訳せた、と思っていらっしゃるらしい。
 ・締め切りを確実に守る事で有名で、その理由が面白かった。会社にいた頃、納期後れは全て返品になるので、その事を思い出して締め切りを守るのだとか。大森望が「じゃあ××さんなんて全て返品ですね」と言っていたのが可笑しかった。それに対して浅倉久志が「締め切りから遅れてもいい翻訳を上げるのが本当の翻訳者かもしれませんね」と謙遜されたコメント。いやいや、誰かとか誰かに聞かせてやりたいお話ですよ。
 ・大森望、「(浅倉さんは)最初30分ぐらいはできないとか難しいとか愚痴るんだけど、それを聞きさえすれば後はちゃんと仕上げてくるので安心できる」とコメント。アンソロジーを編む時はぶっちぎりで早く(一ヶ月前のときもあるとか)上げてきて「実はできているんですが恥ずかしいので他の人に言わないで下さい」と言った事もあるとか。さすが超翻訳家。
 ・洋書にして一日4ページくらい翻訳するそうですが、(子供が小さかった頃は別として)とにかく休まないとか。雨の日も風の日も翻訳。
 ・翻訳家になるきっかけは伊藤典夫との出会いだとか。はてなキーワードにも書いてあるとおりこの二人の日本最強翻訳家の出会いの話が興味深かったです。今まで知らなかったのですが、浅倉久志伊藤典夫は12歳違うんですね。
 ・浜松で既に結婚していた浅倉久志が家に帰ると、見知らぬ高校生がいて、それが伊藤典夫で驚いたとの事。伊藤典夫は16歳でファンジン「宇宙塵」を読み始めて、当時から「浜松にすごい厳しい評論家がいて、誰だろうこれは」と噂になっていたらしい。
(参考:ここ
 ・翻訳家として独立した後のほうが収入が良かったとか。
 ・70年代初期SFマガジンの部数が5000部くらい、売れた号で7000部との事で、今と変わらないのが驚き。印税もその時に話が出ましたが、割と安いんですね。
 ・『アンドロメダ病原体』を翻訳したときは週刊朝日が取材に来たそうです。そのあたりから安定した収入になったとか。
 ・その頃のSFマガジンって浅倉さんが「これがやりたい」って持っていくとそのまま載ったりというのも興味深かったです。
 ・浅倉久志といえばカート・ヴォネガット・ジュニアですが、『チャンピオンたちの朝食』は当初、伊藤典夫が翻訳する予定が時間が経ち、浅倉久志が翻訳することになったとか。その『チャンピオンたちの朝食』については「あまりよくわからなかった」とコメントしていたのがホッとしました。実は個人的にとても好きな一冊なのですが、私の低脳ぶりではまだまだ理解できていないと長年、悩んでいた所だったので(ああそれにしても家にある『チャンピオンたちの朝食』を持っていかなかったのがこれまた悔やまれる!)。

 『チャンピオンたちの朝食』の文庫版あとがきをご覧になった方はご存知だと思いますが、あの文章どおりのシャイかつ非常に謙虚な方でした。それでいて、カート・ヴォネガット・ジュニアコードウェイナー・スミスフィリップ・K・ディックという癖のある作品群を翻訳したのだからなんだか不思議な感じです。
 司会の高橋良平浅倉久志のぼつりぼつりと話す言葉をスローテンポで拾いつつ進めるという意味で良かったですね。大森望もそこを解ってしゃべりすぎなかったのもポイント高かったです。
 なお、今後の浅倉久志ですが国書刊行会より『グラックの卵』という奇想・ユーモアSFの非常に面白そうな短編集が出るとの事です。J・スラデックの「マスタースンと社員たち」が収録されるそうです。
 また初のエッセイ集『ぼくがカンガルーに出会ったころ』が国書刊行会より6月に発行予定との事。これまた面白そう。