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スティーヴン・キング『呪われた町』(集英社文庫)

cry_condor2005-08-04



呪われた町(上) (集英社文庫)

呪われた町(上) (集英社文庫)

呪われた町(下) (集英社文庫)

呪われた町(下) (集英社文庫)




 階段をあがって行くことは、マット・バークの生涯で最大の難事だった。まさにその一言に尽きた。これにくらべればほかのことは物の数ではなかった。おそらくただ一つのことを除いては。
 八歳の少年のころ、彼はカブ・スカウトに入っていた。班指導者の家は一マイルはなれたところにあって、往きは安心だった。まだ夕方の明るさが残っている中を歩いて行くからである。しかし帰りは夕闇が迫り、長いねじくれた影が路上に落ちかかる………会合が長びいたときなどは、暗闇の中を家まで歩いて帰らねばならなかった。独りぼっちで。
 独りぼっち。そう、それがキイ・ワードであり、英語の中でいちばん恐ろしい言葉だった。それにくらべれば殺人という言葉は物の数ではないし、地獄という言葉は貧弱な同義語にすぎない………。



 20世紀のアメリカ・メイン州。セイラムズ・ロットに来訪者が。村に底抜けの恐怖をもたらすその存在は、音も無くやってきた。非業の死をとげた人々の霊がとりつくマーステン館の不気味な影と共に、崩壊していく村の末路は………。




 皆様こんばんわ。さて、「読書感想しりとりリレー2005」のお時間がやってまいりました。例の大遅刻からこっち、当たり前のように遅刻して申し訳ありません。しかし、海外作品の魅力をお伝えするにあたっての熱意は、いささかもゆるぎがないという事をあえて記させていただきます。
 毎回毎回、「海外作品限定」という枷をはめていますと言いようのない恐怖に襲われる事がままあります。ただ単にブログのお遊びであるにも関わらず、本を選ぶときには行き方を限定されているような、そんな感じがするものです。


 そんな海外作品好き、中でも「文学的守護神」というほどに好きな作家を挙げろと言われたらたった一人の名前を、十字をきって唱えずにはいられません。
 それが今回のスティーヴン・キングです。
 「読書感想しりとりリレー2005」でどうしても一度は大好きなキングを取り上げたかったのですが、それがキングの最高傑作とも言えるこの作品を紹介できる事に大いに喜びを感じています。実は本条さんから次のお題が「の」と言われたときに、すぐこの作品を思いつかなかった自分の愚かさに鞭打ち百回といった所です。
 キングの魅力、そしてこの作品の魅力は今までさんざん書かれているので特に私が書き足す事は何もないといっていいのですが、蛇足を承知で進めることにしましょう。


 私は普通のサラリーマンで、昼間はトランクに商品サンプルを詰めて人に売り込むという仕事をしております。残念ながらファイト・クラブに所属することもありません。
 ちょうど昼ともなると小売店も忙しいので、昼食の時間となります。営業の中にはたっぷり一時間の休憩を取る人もいるようですが、たいていは30分もたたないうちに慌しくネクタイを調え、テーブルに張り付いている伝票をひったくり、会計を済ませ次の戦場に赴くのが常です。
 慢性的な時間の貧乏性と言われかねないのですが、私も昼食中に本を読むくちです。午後からの売り上げ数字を気にしつつ、ページをめくっていく。
 今作の再読ももう何回目になるか忘れましたが、レビューを書くためにざっと目を通しておくかという最初の意図とはうらはらに、まさに某氏の言葉どおりの「どのページを開いても文章が強烈な磁力を帯びているかのように」引き込まれて昼食時間を10分刻みで延長せざるをえない事態に陥った次第です。
 早く仕事に戻らねば、という理性と、中高生のカラオケ延長ループに入った中で感じるのは、普遍的な「悪」の流れです。人間誰しもが持つ「悪」の魅力と恐怖。
 キリスト教には「原罪」という考え方がありまして、これが少しでも解れば英語圏の海外作品がもっと楽しめるのになぁ………というぐらい個人的には理解できない思想なのですが、この時ばかりは少しだけその考え方に触れる事ができたような、そんな不思議な気分になります。


 スティーヴン・キングの魅力を伝えるのは非常に難しいのですが、「日常の中の悪」をあぶり出し、超自然的なプリズムで現実と乖離させるその手腕が鮮やかな所は、万人が認める所でしょう。あまりに乖離させすぎても鼻白む、近づけすぎては重い、という所でぎりぎりの所でかわすその手腕はまさに神業です。
 重度のキング中毒者になっていくと、「悪」の濃度が薄まり、延々と日常および精神のディテールが長ければ長いほどいい、という症状に陥ります。かくいう私もそうで、キング作品は長ければ長いほどいいのではないか?という錯覚に陥るほどです。


 作品内容に触れませんでしたがとにかく食わず嫌いの人にも是非読んで欲しい、ブッチギリのモダンホラー作品です。プロットを書いたら二行に満たないという本が何故、上下巻なのかという事も読後に解っていただけるものと、信者の一人として笑顔で信じている次第であります。


 以下が本当の蛇足です。
 この作品のセルフカバーと言える作品がキングにはいくつかあるんですが、中でも『ニードフル・シングス』が救いの無さも含めてお勧めです。海外作品はどうも、という方には明らかにこの作品の影響を受けている(というより、まんまそのもの)小野不由美屍鬼』をお勧めします。

 キング作品に興味を持たれた方はお早目に『ハイスクール・パニック』をご購入される事をお勧めします。キングの高校時代に書き始めたという作品でまぁ出来は正直中の下という感じなのですが、中高生には読ませたい本ですね。これ例の高校銃撃事件以降、キングが全世界的に重版を禁止していましてもうすぐ絶版になります。東京近郊ですと有隣堂さんがたっぷり仕入れていて入手しやすいようです。

 また映画『ライディング・ザ・ブレット』も公開中ですので、今のうちに観に行っておきましょう。

 それでは時間となりました。次のマサトクさん、「チ」でお願いします。