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CON$のブログ。アニメとかホラーとかレトロゲームとか好き。

スティーヴン・バクスター『プランク・ゼロ』(早川書房SF/F)

cry_condor2005-12-14





「こんなものを乗せて滑れるだけの氷があるなんて驚きだわ」
「そうでもないさ。そんなに積もらないように思えるだろうけど、なにせ五十億年間ずっと降っているんだからね……。ラリオノーワ博士、このチャオ・モン=フー・クレーターには凍結した海が丸ごとあるんだ。地球からでも見分けられるほどの氷がね」
 ラリオノーワは首をめぐらせて、キャビン後部の窓越しに外をのぞいた。ローバーの後部ごしに外をのぞいた。ローバーの後部ライトが、周壁山の頂へとつづく一対の橇のあとを照らしだしている。そこには露出した氷が星明かりにきらきらと輝いていた。
 なんてことを。あたしったらスキーをしてるのね。それも水星でなんて。いったいどういう日なのかしら。
………「黄金の繊毛」



 西暦3600年代、ワームホール・テクノロジーが恒星間宇宙への扉を開いた。その前途には宇宙の黎明期から存在する超種族「ジーリー」が待ち受けていた。SF史上最大のスケールを包含した驚愕の未来史連作第一巻。




 皆様こんばんわ。
 「読書感想しりとりリレー2005」のお時間がやってまいりました。
 またまた盛大に一週間も遅れてしまいました。申し訳ありません。
 先週のコピペで誠意がないでしょうか? いや全く面目ないとはこのことです。この「読書感想しりとりリレー2005」も2006年開催の話がされていまして、私も参加に関しては迷っているところではあります。


 年の終わりのこの時に恐縮ではありますが、例の口上を述べさせていただきます。私は、「読書感想しりとりリレー2005」の中におきまして、海外作品を専門とさせて頂いております。どんなお題が回ってきても海外作品の素晴らしさを紹介し同胞を増やすべく日々邁進するのが己が務め。
 どうも読書界においては、海外作品は翻訳というフィルターがある為にどうも邪道という見方があるようで、そのあたりの誤解を払拭し、今回も素晴らしい海外作品の世界をお伝えしようかと。


 さて今回は今まで扱えなかった「ハードSF」であります。
 SFといえば言うまでもありませんが海外が本場、その中でも科学技術を深く扱ったハードSFともなれば海外作品の本領発揮といった所でしょうか。もちろん、日本にも小松左京とか神林長平といった優れた作家がいらっしゃいますが、まずは海外作品で下地を作って頂きたいものです。

 とまぁ偉そうに書いてみましたが、読むたびに「?」が増えるのがスティーヴン・バクスターですね。未だに役立たず要員であります(まことにお恥ずかしい)ワールドコン2007実行委員としてこれはどうなのでしょうか。ハードSFの中でも比喩がそぎ落とされ会話の中で突然、ハードになるのがバクスター作品だと覚悟はしていたのですが辛いところは辛い。
 ハードSFでは様々な科学技術がちりばめられているのですが、それが理解していないと話の結末のカタルシスが得られなかったり………じゃあハードSFはつまらないのか? SF読者の衰退はその辺にあるのか?と問われれば、断固としてノー!と言いたいところです。
 ハードSFの楽しみについて私が書く事に関しては、はっきり言って大変おこがましいです。それでもあえて書かせていただくなら「未知を知る果実」という所でしょうか。
 自分の知らない領域、途方もない領域で、壮大な物語が繰り広げられ、拡大してゆく。
 こんな読書経験が他のジャンルで得られますか?
 それも海外作品のハードSFならでは、の経験です。
 経験せずして、読書人生を終えるのはいささが勿体無い。それがハードSFの岸辺に対する真っ当な描写であります。


 今作は「ジーリー・クロニクル」と銘打たれた一巻でして、近未来(3672年)から5611年までの途方もない人類史を俯瞰した作品です。一生に人間が読む書物の、全ての物語時間を合わせてもなかなかこの年数には達しないでしょう。それを手のひらでめくって見るという事の愉快。絵空事とはいえ、スケールの大きさがそれを包括していき、自意識も膨大な時間の中に溶け込んでいく事の愉悦。
 別の時代では味わえないこの楽しみを得ずして死ぬのは、葬儀社に代わって重ねて申し上げますが、あまりに勿体無い。


 幸いにして、今は楽に手に取れる本ですので、体制が変われば如何かと思いますが、とにかく踏んで損のない踏み絵ではあります。今作に限って言いますと、実は前半が結構辛かったりしますが、後半は理解が難しい科学ガジェットを補ってあまりあるスケールと運びになっておりますので、投げ出さないように。
 いやあ、SFって本当にいいものですよね。


 最後に余談ですけど、今作の表紙って撫荒武吉さんなんですね。まぁ、SFマガジンのイラストとかもやっていらっしゃるCGイラストレーターさんなんですが、個人的には「まえばり」の人というイメージが………ゲフンゲフン、まぁ今作は美しいジーリーの船(ですよね?)ですのでネコミミ美少女のイラストではないという点でご安心を。そういうカバーのハードSFも読みたい気もしますが。


 それでは時間となりました。次のマサトク様、「ロ」でお願いいたします。