- 作者: シオドアスタージョン,Theodore Sturgeon,小笠原豊樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/11
- メディア: 単行本
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「そういう恐怖が………手足切断などの事故が………ずっと昔は面白かったのだ。わたしが子供だった頃、赤ん坊だった頃だろうか。他人の苦悶や死が愉快なものであり楽しめるものであるということを、その頃、何かがわたしに教えたのだ。思い出す………そう、それがそうでなくなったときのことを、思い出す。あれは確か………おもちゃが………」………「熊人形」
短編の名手、シオドア・スタージョンの代表的短編集にして永らく入手困難であった本が早川書房創立60周年記念出版として「新装版」で登場。
皆様こんばんわ。
「読書感想しりとりリレー2005」のお時間がやってまいりました。
またまた盛大に一週間も遅れてしまいました。申し訳ありません。
今回は「い」というお題が回ってきて、さほど悩まずに今回の一冊を選びましたが何せシオドア・スタージョンですよ。この作家の面白さを伝えるのはどうしたらいいんだろう………と悩みに悩んだのが一週間の遅れの結果です。単なる言い訳ですね。
「読書感想しりとりリレー2005」の中メンバーの中で、唯一海外作品専門という縛りを設けてこの一年やってきましたが、いつも考えていたのは海外作品にしかない独特の味わいを伝えるにはどうしたらいいだろう?という事でした。レイ・ブラッドベリの時もそうでしたが、異色作品というのは説明のしづらい領域であると同時にこれを達しえるのは海外作品しかないだろうとか思いつつ、機会に恵まれませんでした。ただのレビューだったら早々に妥協していたかもしれませんがこの「しりとり」というルールのお陰で元来の天邪鬼さが首をもたげたのか、どうしても伝えていこうという思いがつのる一方。
そこでシオドア・スタージョンの登場ですよ。
最近では創元SF文庫『時間のかかる彫刻』(サンリオ文庫の『スタージョンは健在なり』の全訳)が出たりして読んだ方もいらっしやるのではと思いますが、あれがスタージョン最初の一冊だったらさぞかし衝撃を受けた方が多いのではないでしょうか。SFとミステリを一通り読んできた、という方なら特に。
非常に謎のあるプロットでもなく、斬新なアイデアがある訳でもない。
ただ何とも言えず人に伝えたくなる部分がある不思議な作品。
これが「異色作品」の魅力です。
さてスタージョンの魅力は何か、という事ですが、今日まで考えて上手い結論が出せませんでした。ただ我々は稚拙ながらも歩まざるを得ません。
強いて言うなら、小説上のどこかの風景が集まり多彩さを描き出している、という所でしょうか。といっても、パスティーシュなどではありません。どこかで見た風景ながら、落とし所は異常。つまるところ、脳の電気信号の所為と伝えられる「夢」をぎりぎりまで切り出したスタージョンの凄いところでしょう。
玄人受けする、といえばその通りなのですが、フィリップ・K・ディックのように視点の奇妙さだけでなく、文字・文章そのものに踏み込んで奇妙さをかもし出すという職人芸に惹かれるのです。
芸術の「芸」とは何でしょうか。「術」とは何でしょうか。それらが今日、会話の俎上に乗る事はほとんどないでしょうが、スタージョンの文章に触れた時、その問題の深い深い淵を見てしまったかのような印象が心に残るのです。
これと同等の印象を残す日本の作家はほとんどいないと思います。かろうじて澁澤龍彦ぐらいでしょうか?
それにしても異色作家短編集の新装版とは早川書房も粋なことをするものです。本書の解説にもありますが、今作は永らくコレクター垂涎の的となっていまして、手に入れるには数万円出さないといけないという状態だったのですよ。私も人づてに聞くぐらいで旧版は見た事がありません。
余談ですが、最近連載が終了した『ラブロマ』の作者、とよ田みのる氏もこの本を心待ちにしていたようです(10月19日の日記参照)。Web上で未公開作品が読めるんですが、どっか変だなと思っていたらスタージョンにインスパイアされた部分がかなりあるようです。
読書歴が浅いと結構、ツライかもしれませんが、もっともっと本を読んでいきたい、という人にお勧めしたいのがスタージョンです。
それでは時間となりました。次のマサトク様、「ウ」でお願いいたします。