Radio CON$

CON$のブログ。アニメとかホラーとかレトロゲームとか好き。

グニラ・ガーランド『ずっと「普通」になりたかった。』(花風社)

cry_condor2005-07-13

ずっと「普通」になりたかった。

ずっと「普通」になりたかった。




 周りの人たちにとっては、私の行動はまったく理解できないものだった。私はいつも何かに触れていた。瓶の口に指をつっこみ、瓶の底に手をすべらせ、ソファーのひじ掛けをなで、ドアノブの周囲をなぞり、階段の手すりの玉に掌をこすりつける。私はただただ、曲面のある物に触れたかった。私には、曲面が必要だったのだ。



 皆様こんばんわ。私の記憶が正しければ、十順目という事になりますでしょうか。
 前回は本が非常にいいのにトラブルがいろいろあって自分の中では最悪の事態になってしまいました。今でも残念に思っているのに書き直さないのは何故でしょうか。
 そんな十順目も嫌な予感はしていたんですが、遅刻してしまいました………しかも二日。
 このまま年末まで一気にテンションが下がったままでこの「読書感想しりとりリレー2005」を破綻させてしまうんではないだろうかとか余計な危惧を抱いていた訳ですが、何とか仕上げようとしています。


 人生における後悔の大半が中途半端な事に起因しているので、いい加減なんども同じ過ちをしている事に気がつき修正していきたいものです。
 普通に。


 さて本題に戻りましょう。ここまで書くのに珍しく一時間半かかってます。普通にいきましょう、普通に。
 すでにご存知の方も多いと思いますが、「読書感想しりとりリレー2005」において私は海外作品を担当しています。………「海外小説」ではないのかって? い、いやあのですね、「ず」ではじまる海外小説、それも私が選びそうなホラー/ミステリ/SFがありますか? もうかなり探しましたよ。ホント本条さんってば!と毎回毎回言っているような気がしますが今回は参った。それでギブアップさせてもらうことにしました(その後『ずっとお城で暮らしてる』を某所で思い出して愕然としましたが、これも入手困難ですしね)。
 ただのギブアップではつまらないので、やはり海外作品を紹介させていただきます。
 今回はノンフィクション作品です。
 普段から蝶だ妖精だとか言っている私がノンフィクションも割と読んでいる、と言うと驚かれる方が多いんですが、海外ノンフィクションには奇天烈なものが多く、そういった意味では普段の読書軸から外れていないのではないかと。


 本書は「高機能自閉症」に悩む著者の手記です。私もさほど詳しいわけではありませんが、自閉症などについてちょっと調べると、「自閉症」ってのは何でこんなネーミングなんだ?とか思いました。ネットを徘徊しているとよく見かける単語、アスペルつまりアスペルガー症候群もえらく誤解している事が解ったり。まぁ高機能自閉症の「高機能」っていうのもかなり変なネーミングだと思いますが。
 高機能自閉症の人が見る世の中がどういうものなのか?という事を主観で書いた本というのはあまりないようで、この本も実は2004年8月で十刷になっていますね。
 今回取り上げたのはずばりタイトルの為。
 周りは「普通」が解っているにも関わらず自分だけ台本のない芝居に巻き込まれたようだ、という状態は誰にもあるものだと思いますが、個人的には毎日毎日、感じています。世間的には成人男性で営業職、スーツを着てカバンにサンプルを入れて客先を回るという「普通のサラリーマン」に分類される立場にあるからか、「普通」というものの脅威を感じるわけです。


 「普通」に生きる事は難しい………と考えつつ本書を読みはじめましたが、半分を超えたあたりから当初の気持ちは吹っ飛び、高機能自閉症の世界にどんどんトリップしていったような………。延々と悪夢が続いているような感じ。それがまた内面からの描写ではなく、誤解に基づく周囲の反応が悪夢的、という所がポイントです。
 高機能自閉症は一見して解るような障害ではないので、しばしばこういう事が起こるわけですがこれがページをめくってもめくっても延々と書いてあるんです。おまけに翻訳文体なので途中で投げてしまう人もいるかもしれませんが、どっぷり漬かればいろいろと見えてくる事も多いものです。


 海外ノンフィクションには他にもいろいろ面白いものがありますが、個人的に面白かったものとして『メールのなかの見えないあなた』(文春文庫)を挙げておきます。今よりネットが普及していなかった頃、ネットで知り合ったおじさんに13歳のキャサリン・ターボックスが会いに行ってしまって………という話。自閉症とは関係ありませんが、これも事件後の「周囲の反応」が悪夢的という点で非常に興味深いものがあります。ネタとして買った割には良かったです。あとこれ、版元が大量に在庫を流したらしく、かなりの確率で古本屋にあります。

  それでは時間となりました。次のマサトクさん、「タ」でお願いします。