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アン・ハラム『リンドキストの箱舟』(文藝春秋)

cry_condor2006-07-09



リンドキストの箱舟

リンドキストの箱舟



 皆様こんばんわ。「読書感想しりとりリレー2006」のお時間がやってまいりました。一週間超遅れてしまった事はもうお詫びのしようもありません。何とかお題だけは規定日に回したし本も読んだのですが感想がなかなか。
 先日参加した読書会が楽しくてその反面、自分の未熟さにショックを受けまして………あ、また言い訳ですね。
 この「読書感想しりとりリレー2006」では断固、海外もの主義!という事で海外作品以外は紹介しないことにしております。それで今回が「り」でして、また迷った挙句、決めさせていただきました。


 ハードカバーの、しかもファンタジーを読むなんて久しぶりだなぁと思ってしまいましたが、子供の頃からたどって考えると、もともとはファンタジー作品好きだったのです。読むものがわからなくなってきて、今ではファンタジーのほか、ホラー、SF、ミステリなど乱読状態ではありますが。今月アニメが公開になるゲドをはじめとして、エンデの各作品とか一通りは読んだと思います(指輪がけっこう後に読んだかな)。日本だとやっぱし天沢退二郎ですね。ここで紹介できないのが非常に残念ですが、イメージが素晴らしい。
 子供の頃、あまりに空想癖がひどかったので、うちの母親とか学校から注意されて将来が心配になったそうですが………今はその心配どおりに日々の仕事から逃げ帰って非現実文学の数々に身を浸しております。母さん、ごめんなさい。


 さてアン・ハラム『リンドキストの箱舟』です。作者のアン・ハラムはグウィネス・ジョーンズ名義でSF、ファンタジーを多数発表しているらしいのですが………知りませんでした。書いているのはジュブナイル作品らしいんですけどね。世界幻想文学大賞(短編部門)、アーサー・C・クラーク賞、フィリップ・K・ディック賞など受賞しているのとの事ですが、邦訳作品の紹介がほとんどないところを見ると、知られざるファンタジー作家なのでしょうか。


 原題が「SIBERIA」。この物語は、異常気象と乱獲によって野生動物がほぼ絶滅し、凍土と化した近未来の地球。作者はロシアの人かと思っていたら、イギリス生まれだそうで、それでこれを書くのはなかなかのイマジネーションだなというほど寒くて冷たい世界です。いわゆる最終戦争後の地球の様な感じなのですが、主人公の少女・スローが政治犯の娘で収容所に入っているというところがポイント。
 元・科学者であった母から託された絶滅動物の種子のような「リンドキスト」を守って北へ北へ旅をする………と書くと、アニメ『キングゲイナー』を思い出しますが、少女スローを取り巻く状況は過酷です。その過酷さが全編を覆っているので一般受けはしないだろうな、と思いますがこういうトラウマを与えるのも児童文学の役目なのではないでしょうか。
 今でこそ著名なM.エンデだって、要所要所に嫌な感じの描写があるからこそ読み継がれているわけでして、個人的には子供の頃にその「陰」の蜜を味わわなければホラーと楽しく接する事ができなかったかもしれません(それはそれで、健全な子供になったかもしれませんが………)。


 無垢な少女スローが時には動物で人を攻撃したり、盗みをしたりという事を繰り返して最後にはまぁハッピーエンドとなるんですがそこまでの過程が日本作品だったらまずボツというほどに重くて暗い。さらにこの閉塞感。慣れていないとショックを受ける事間違いなしですが、わたりむつこ著『はなはなみんみ物語』にも似た、自分の置かれている閉塞感とダブらせて読むと大変、楽しい物語ではあります。


 もし、学校で周囲と何となくそりがあわないな、と思っている女の子がいたら私はこれをお勧めしますね。表紙がパステル調のかわいらしいイラストでダマされますが、中身はSFでしかも………というあたり。
 それでは次のあちゃぞうさん、「ね」でお願いします。