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ジョージ・R・R・マーティン『タフの方舟』1・2(ハヤカワ文庫)

タフの方舟1 禍つ星 ハヤカワ文庫SF

タフの方舟1 禍つ星 ハヤカワ文庫SF




「好奇心は手前の困った悪徳でございましてね。さきほどから、手前、どうも心底を見透かされているのではないかと不安におののいておりましたが………こんどは手前の弱点をついてこられましたか」
「"好奇心は猫を殺す"ってね」
「あまり愉快なことばではございませんが、一面の真実ではありましょう」
「だけど、満足は猫を生き返らすともいうぜ(後略)」
………「禍つ星」



 宇宙商人ハヴィランド・タフ。身長2メートル半、色白、猫好き、美食家。そんな彼が呼ばれて行ったのは周期的に災厄を撒き散らす謎の星、「禍つ星」。その正体を探るべく訪れた一行に驚愕の真実が! 宇宙一あこぎな商人、タフの冒険を描く一巻目「禍つ星」。数々の事件を乗り越えタフが手がけた壮大な事業の顛末を描いた二巻目「天の果実」。




 皆様おコンバンワ。「読書感想しりとりリレー2005」のお時間がやってまいりました。
 このご挨拶もそろそろ慣れてきたと思いきや、一年もあと二ヶ月というところまできました。
 早いものです。リレーも十五順目で、特に大きな事故もなくここまで続いたリストを拝見しますと、山賊が普段登らないような高い山を登ってしまった時のような感慨深さがあるものでございます。
 手前、「読書感想しりとりリレー2005」では僭越ながら海外作品を担当させていただいております。先ほど山賊と申し上げたのもそこに所以がある訳でして、どうも海外もの読みは読者として異端とみなされるようであります。
 これははなはだ遺憾であると申し上げねばなりません。
 海外作品は皆様のまだ見ぬ深みと奇抜さが埋まる宇宙の様なものです。これを味わう事なしに鬼籍に入るというのは、失礼ではありますが愚の骨頂と申し上げずにはおられません。

 リレー前走の本条様がトーマス・M・ディッシュ 「いさましいちびのトースター」という傑作SFを紹介されているとの事でして………いや、これを書いている現在、まだアップされていない様ではありますが、屍を越えてまいりましょう………手前、すぐに思いつく本がありました。
 それが今回ご紹介させていただきます作品。2005年に読んだSFの中で五本の指に入る事は、手前の朝食を賭けてもいいほどの傑作『タフの方舟』であります。


 本文の内容に触れる前に、(多くの方が指摘されている事ではありますが)初版の帯文がふるっておりますので、ご紹介させていただきましょう。


「『ジュラシック・パーク』の興奮と、『ハイペリオン』の愉悦がここにある」
「イーガン、チャンがわからなくても、この本の面白さはわかります」

 何とも大きく出たものだと思いつつ手前も惹かれるものがありましたが、偽りはございません………まぁ少々『ハイペリオン』云々は言い過ぎの様な気がいたしますが。
 魅力の一つは主人公の宇宙商人、ハヴィランド・タフにございます。商人らしい腰の低さですがその言葉が実に慇懃無礼………えっ、まるで今回の手前の口調によく似ているとおっしゃる?
 これはまた、きわめて驚くべき指摘を披露されるもので。いやはや、お客様の洞察力は実に大変なものでございますな。
 数々のSF設定は突出したものではありませんが、逆に言えば数々のエンタテイメント作品に嗜みのある皆様でしたらすんなり受け入れられるものでありましょう。それもそのはず、86年(雑誌掲載はもっと前)のSFでございますので。
 このタフがともすれば虚勢を張りがちな宇宙の荒くれ個性者を相手に堂々と渡り合う会話と、SF養分がふんだんに取り込まれた奇想天外な行動と展開、まさにSFの醍醐味を味あわせてくれる二冊でございます。


 また内容に浅く触れつつ手前語りをする事をお許しいただきたいのですが、手前、第二話以降に登場する"鋼の後家蜘蛛"トリー・ミューンのキャラクター性が好きでございまして。
 ス=ウスラムの宇宙港の統治者として恐れられ愛され、危機を救ってくれるタフに対する態度、猫に対しての態度、まさに本作を2005年ベストツンデレSFとしている核でございます。
 そのツンデレぶりは是非、本書でお確かめいただければ幸いです。
 一巻目では映画の様なエンタテイメント性を見せる本シリーズも二巻目の表題作にして最終話「天の果実」における重さでバランスをとっており、作者の筆力の高さに次回作を期待するのは手前ばかりではありますまい。


 まだまだ書き足りないのですがこれ以上はまさに野暮というもの。是非、書店で手に取って頂ければ幸いでございます。本日はご拝聴、誠にありがとうございました。
 それでは時間となりました。次のマサトク様、「ネ」でお願いいたします。