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レイ・ブラッドベリ『黒いカーニバル』(ハヤカワ文庫NV)

cry_condor2005-08-24


黒いカーニバル (ハヤカワ文庫 NV 120)

黒いカーニバル (ハヤカワ文庫 NV 120)




 彼らは、自分のもっとも欲しているものを手に入れようと、それをあけたのだ。過ぎ去った長い孤独の年月のなかで、何ものにも満たされない不幸な男たちのすべてが、この宇宙の三千世界で自分のもっとも欲しているものを手に入れようと、それをあけたのだ。彼らはみんな目ざすものを見つけた、この三人も含めて。壜がなぜかくもすばやく人手にわたっていったのか、その理由も今ではわかる。死んだ海のほとり、その砂浜に収穫後のもみがらのように舞い、燃えあがる炎、とびたつ蛍さながら、霧と化した男たち、彼らがなぜ消えていったかも。
 ベックは壜をとりあげると、自分からなるべく遠ざけるようにして、長いあいだ持っていた。その眼は明るく輝いていた。両手は震えていた。(「青い壜」より)



 独特の味わいにより数多くのファンを持つレイ・ブラッドベリ。幻の初期短編集『ダーク・カーニバル』から厳選した作品に加えて24篇の初期短編を収録。




 皆様こんばんわ。
 「読書感想しりとりリレー2005」のお時間がやってまいりました。前回はスティーヴン・キングを紹介することになり、また内容にロクに触れずに絶賛して閉口した方も多いと思いますが、そろそろあきらめて下さい。今回も海外作品限定でご紹介させていただきます。


 今回のお題は「く」という事で考えましたが………。実は「く」で始まるナイスな海外作品って多いんですよ。最初に考えたのはラストがすごくすごく好きな『クージョ』。またキングか!と言われるかもしれませんが、これもどうしても紹介したい作品なんですよね。この、このラストがさぁ! あと、『暗闇のスキャナー』。またディックですよ。マサトクさんに語った事がありますが、これ実はフィリップ・K・ディックのマイベスト作品なんですよ。『クローム襲撃』。ウィリアム・ギブスンも一度はやりたい。『くそったれ少年時代』。あっ、またブコウスキーだ。でもこれもいいですよね。『くらやみの速さはどれくらい』。自閉症テーマでSFという、チョイスとしてはいいでしょう。


 そんな中をおさえてトップ候補に躍り出たのが今作です。
 レイ・ブラッドベリ
 傑作な短編『霧笛』(The Fog Horn)は教科書に載ったこともありますから、実は読んだ事がある、という方も多いのでは?

 キングのリアリズムにも惹かれるものがありますが、ブラッドベリの叙情性もまた抗いがたいものがあります。今回も締め切りから一日遅れているんですが、昨日も一昨日もずっとブラッドベリの事を考えていました。それくらい書くのが難しいんですね。
 ブラッドベリ、いいよー面白いよー読んでみなよーと書くだけでいいと思うんですが、この「読書感想しりとりリレー2005」では再読の際、自分の中の何かを整理していきたい、と思っているので余計にこじれて大変でした。
 今作は実に十数年ぶり(だと思う)に再読したんですが、24篇の短編を読んでいくうちにブラッドベリの精神世界にどんどん分け入っていく感じがするんですね。仕事中でも居酒屋でも何線に乗っていてもどんどん心が入っていく。でも、何も出てこない。不可思議な先輩と少し話をした時に感じた、あの奇妙な感覚。分け入っても分け入っても何も無い。自分の中にどんどんブラッドベリが入っていく。水はくるぶしを過ぎて気軽にへそをこえてついに耳に達し、久遠の音が聞こえない領域になっても自分の内と外にどんどんブラッドベリの言葉が埋まっていく。
 そして突然に終わる。
 バーン! おまえは死んだ!


 今回解った事は、ブラッドベリを読むことそのものが最もブラッドベリ小説的である、という事です。
 ブラッドベリは受け入れられない人にとっては徹頭徹尾受け入れられないんですね。これは、導入からどんどん「物」や「事」に対する描写が薄まっていく独特の叙情感にあると思います。ブラッドベリを読んでいくと、周囲のディテールの全てが薄まり、言葉のみが残る。詩的私的に進んでも戻れない。ただの不条理とも違うこの独特の読書体験は味わっておいて損はないはずですし、これぞ海外作品にしかない味わいであると断言しておきます。


 また内容に全く触れず申し訳ないのですが、今作の中で個人的に好きなものを選べと言われたらやっぱりブラッドベリ怪奇小説面が色濃く生かされた「棺」「ほほえむ人びと」「死の遊び」が好きですね。
 再読で唸ったのはやはり「青い壜」「死人」「夜のセット」でしょうかね。


 それでは時間となりました。次のマサトクさん、「ル」でお願いします。