ホラーの名作『ゾンビ』は単調なストーリーにヨーロッパ
映画の手法を用いて「悲しみ」を映画に与えようとした作品
です。ただし、素材のままでもアメリカ映画として立派に
成立したはずでした。あの映画は、まさにアメリカでしか撮
れない作品でしたから。
『テキサス・チェーンソー』はそんなアメリカの味わいを
直球で描いた作品です。ま、もちろんオリジナルはトビー・
フーパー監督『悪魔のいけにえ』なんですが、オリジナルと
の比較は他サイトでさんざんされていると思いますのでここ
では割愛。
田舎町に恐怖があるとしたら、その結束力の強さだったり
しますが、スティーヴン・キングの諸作品を例に出すまでも
なく、洋の東西を問わず恐ろしいものであるはず。
しかし、こと映像となると怖いのは私が日本人だからでしょ
うか？ トレーラーハウスの不気味な住人、平気で銃を撃つ
保安官、隣家と離れていてもその広大な土地柄なんの問題も
ない一軒家………全部、今でも現存するもので、その輪郭が
日本よりだんぜん濃い。
『テキサス・チェーンソー』（と『悪魔のいけにえ』）は、
怪人レザーフェイスが白昼堂々と出てくるという画期的な
アイデアが肝なんですが、「闇にある不可解なものは、白昼の
中でも不可解だった」という絶望感がポイント。同じ人間で
あるはずなのに、この不条理さは一体なんだ？というテーマ
に勝るホラーはないでしょう。
今作の事もちょっと書いておくと（おっと、今までそうじゃ
あなかったのか？）、ある一点以外はリメイクとは思えないほ
どの秀作。正直、もっとしょっぱい映画だと思っていたので、
驚きました。
たった一点とは、レザーフェイスがやや同情的な視点で描か
れる事。地下室で背を丸め、死躰の皮にミシンをかける事に
熱心なレザーフェイス………この頬を流れる熱いものは、何？
自分が感情移入しているからそう思えてしまうのか？
キャストで注目はノータリンっぽいジェシカ・ビールスでは
なく、リー・アーメイ。そう、『フルメタルジャケット』の
軍曹です。あのノリでキチガイ保安官を熱演するので必見！
という訳で、『アンデッド』とか秀作が続く最近、現実の
辛さにどんどん背を向けられるいい季節ともいえます。
春は近いぞ！
